照径以後 : 上田三四二歌集 <現代短歌全集 55>

出版情報

項目詳細
出版社短歌新聞社
発売日昭和63年1月(1988年1月)

本の概要

『照径以後』は、上田三四二が晩年に詠んだ短歌を収録した歌集であり、前作『照径』に続く精神的探求の結晶とも言える一冊です。本書は、現代短歌全集の第55巻として刊行され、作者の思想的深まりと詠歌の成熟が一層強く表れた内容となっています。

作品には、病と老いに向き合う静かな覚悟、そしてそれを超えた宗教的なまなざしが一貫して流れており、特に仏教思想に根ざした無常観や、「生」から「死」への穏やかな移行が、簡潔な言葉の中に深い含意をもって表現されています。

著者について

上田三四二(うえだ さんしじ、1923年7月21日 - 1989年1月8日)は、兵庫県生まれの歌人、作家、医師です。京都帝国大学医学部を卒業後、結核医療に従事しつつ、短歌・評論・小説の創作を行い、幅広い分野で活躍しました。

短歌においては、冷静な観察と哲学的な思索を併せ持つ作風で知られ、評論では現代短歌の批判的な論者としても一目置かれる存在でした。晩年には宮中歌会始の選者を務めるなど、文学界でも重きをなしました。

評価と感想

『照径以後』は、上田三四二の作品の中でも特に内面的な深さが際立つ一冊であり、その簡潔かつ明快な言葉は、読む者の心に深く染み入ります。老いと病というテーマを扱いながらも、それを悲壮ではなく、ある種の「静けさ」として受け入れていく姿勢が、多くの読者に共感と感動を与えています。

日常に潜む真理を掘り起こし、宗教的・哲学的な視座から生命を見つめ直す本書は、短歌に興味がある人だけでなく、人生の深みに思いを巡らせたい人にも大きな示唆を与えてくれるでしょう。

重要なポイント

本書で特に印象に残るのは、死を見据えたうえでなお、生きることへの静かな肯定をにじませる詠歌の数々です。たとえば、自身の病床から見た風景や、日々の生活に差し込む光の美しさを歌った作品などは、静けさと深さを兼ね備えた短歌の魅力を存分に伝えています。

それはまるで「生」の終わりに差し掛かった地点で振り返る“照らされた道”(照径)を歩んだ後の、「その先」を静かに語る声のようです。

まとめ

『照径以後』は、上田三四二の詩的精神の到達点を示す貴重な記録であり、短歌が単なる感情の吐露ではなく、深い思想や生の営みを表現する手段であることを改めて教えてくれる作品です。短歌という形式の可能性を知りたい方、また人生や死についてじっくりと考えたい方には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。