出版情報
項目 | 詳細 |
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著者 | 須賀 敦子 |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2002年7月30日 |
ページ数 | 177ページ |
ISBN | 978-4101392226 |
本の概要
『地図のない道』は、日本のエッセイストである須賀敦子が、イタリア・ヴェネツィアを舞台に自身の記憶や体験を綴った作品集です。
表題作「地図のない道」は、「ゲットの広場」「橋」「島」の3つの短編から構成され、ユダヤ人地区であるゲットや運河に架かる小さな橋を巡る中で、著者の幼少期やミラノでの仲間たちとの思い出が蘇ります。
また、併録された「ザッテレの河岸で」では、ヴェネツィアの娼婦たちの歴史に焦点を当て、街に刻まれた多様な記憶を探求しています。
著者について
須賀 敦子(1929-1998)は、日本のエッセイスト、翻訳家、イタリア文学者です。聖心女子大学卒業後、24歳で初めてイタリアを訪れ、その後13年間をイタリアで過ごしました。
1961年にはイタリア人編集者ジュゼッペ・リッカと結婚し、日本文学のイタリア語翻訳に携わりました。
帰国後は大学で教鞭を執り、56歳から文筆活動を開始。代表作に『ミラノ 霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』『トリエステの坂道』などがあり、その静謐で深みのある文章が多くの読者に支持されています。
評価と感想
本書は、須賀敦子の独特な透明感と静けさを持つ文章で、ヴェネツィアの風景や歴史、そして自身の記憶を繊細に描き出しています。
観光記や訪問記とは一線を画し、深い洞察と個人的な体験が融合した作品となっています。
読者からは、「淡々とした透明感のある独特の文章」「観光記ではない。訪問記でもない」といった感想が寄せられています。
須賀敦子の作品を初めて読む方にも、彼女の世界観に触れる入門書としておすすめです。
重要なポイント
本書の中で特に印象的なのは、著者が友人たちとヴェネツィアのゲット地区を訪れた際の描写です。
ユダヤ人地区であるゲットの歴史や風景を辿る中で、著者の幼少期やミラノでの仲間たちとの思い出が交錯し、過去と現在が織り成す独特の時間感覚が表現されています。
また、「ザッテレの河岸で」では、ヴェネツィアの娼婦たちの歴史を通じて、街に刻まれた多様な記憶と人々の営みを浮き彫りにしています。
まとめ
『地図のない道』は、須賀敦子がヴェネツィアの風景や歴史、自身の記憶を織り交ぜて綴ったエッセイ集です。
彼女の静謐で深みのある文章は、読者をイタリアの街角や自身の思い出の中へと誘います。
イタリアやヴェネツィアに興味のある方、また須賀敦子の作品に触れてみたい方にとって、心に残る一冊となるでしょう。